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■『戦旗』1617号(7月5日)4-5面 「国家総動員」もくろむ岸田政権 経済安全保障推進法成立を弾劾する 高橋宏幸 五月一一日、岸田政権の重要法案である経済安全保障推進法が成立した。この法案に野党の立憲民主党や日本維新の会、国民民主党も賛成し、ブルジョア補完勢力としての本質をさらけ出した。経済安保法制は日帝ブルジョアジーの利害を最大限に追求し、それを国家戦略と一体化させて自国第一主義、保護主義化を推し進め、全人民を国家=資本の利害貫徹のために監視、統制、総動員しようとするものだ。われわれは経済安全保障推進法強行成立を徹底弾劾する。 ●1章 経済安保法は現代版国家総動員法だ 経済安保とは何か 経済安保法制の目的は、「第一章 総則(目的)」の中で以下のように記載されている。「国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、安全保障を確保するためには、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大していることに鑑み、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するため、基本方針を策定するとともに、安全保障の確保に関する経済施策として、所要の制度を創設する」。しかし、条文上には「経済安全保障」についての定義がない。この法制の問題点の一つはここだ。それは定義が明確でないがゆえに、時々の政権によって都合の良いように解釈ができるからだ。また、一章の第五条には、「規制措置は、経済活動に与える影響を考慮し、安全保障を確保するため合理的に必要と認められる限度において行わなければならない」と、いかようにも解釈できる文言となっており、政府の事実上フリーハンドの規制措置を可能にしている。 経済安保法制の骨格 経済安保法は四本の柱によって構成されている。第一に「特定重要物資」の供給網(=サプライ・チェーン)の強靭化をはかるとしている。具体的には、「特定重要物資」に指定された製品を製造する民間事業者が供給確保計画を作り、国が資金面で補助するという。「特定重要物資」を扱う事業者に対しては、生産や輸入、調達や保管状況について国が調査する権限を持つ。 ここで当然「特定重要物資」の定義が問題となるはずだが、これまた条文に明記されていない。半導体、レアアース、医療品などが想定されるというが、何を「特定重要物資」とするのかは、今後、国会審議のいらない政令・省令の委任事項とされており、それらは一三八カ所にも及んでいる。つまり時々の政権の裁量次第で「特定重要物資」の指定が可能であり、事実上、政府への白紙委任となっているのだ。これが「資金補助」に群がる特定の製造業者と政府との癒着の温床となることは明らかだ。第二次安倍政権が「成長戦略」として打ち出した「国家戦略特区」を悪用した加計疑獄事件――「お友達」への利益配分、政治と国家財政の私物化――とまったく同じ構造である。 第二に、「外部からのサイバー攻撃などに備える」という名目で、「基幹インフラ」に該当する事業者が設備導入や新設の際に、国が事前審査を行うとしていることだ。「基幹インフラ」の対象は、電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの一四分野とされる。これらの事業者が重要な設備やデータの保全を「わが国の外部」に依存しないよう事前に審査をするとしており、企業に対して「導入計画書」の提出が義務づけられた。 法案には「外部への依存」「外部からの妨害」など「外部」なる概念が使用されている。この「外部」が何を指すのかという定義もない。国会審議で野党はこの点を追及した。「日本の外部の国々全体を指すのか」という質問に対して、政府はこれを否定した。「中国は外部で、アメリカは外部ではないのか」という質問に、経済安保担当相小林鷹之は、「外部というのはいかなる国が対象となり得るかについて予断を持ってお答えすることは困難」、また「この法案は特定の国を念頭に置いたものではありません」などと質問をはぐらかした答弁を繰り返した。 重要なのは、虚偽の届け出など違反した場合には「二年以下の懲役や一〇〇万円以下の罰金」などの罰則を科していることだ。日帝の国家戦略に沿わない事業は認めないという国家による企業への管理・統制強化を狙うものだ。 第三に、「先端技術開発の官民協力」を打ち出している。法案では、宇宙、海洋、量子、AI(人工知能)などの分野における先端技術を「他国依存のリスクが高い技術」として「特定重要技術」と定義し、個別のプロジェクトごとに政府関係者と研究者らで構成する「官民協議会」(トップは総理大臣)を設置する。それに加え、一〇〇名規模の研究者を集めるシンクタンクを作り、国が情報提供や資金面で研究開発を支援するとしている。すでに政府は二一年度補正予算で二五〇〇億円の基金を創設しており、将来的に五〇〇〇億円にまで増額するとしている。 この官民協議会の参加者には「機微技術」(=軍事利用の可能性が高い技術のこと。武器製造技術のほか、軍事転用可能な民生用技術も含む)に関する情報の守秘義務があり、違反した場合には一年以下の懲役か五〇万円以下の罰金が科される罰則規定が設けられた。 首相岸田は、国会での答弁で「民生利用や公的利用への幅広い活用を目指す」と語り、軍事研究の意図を否定したが、経済安保担当相小林は「(研究)成果は防衛省の判断によって、防衛装備品に活用されうる」と答弁し、研究開発には軍事分野も含まれることを認めた。 量子科学やAI、宇宙などの先端技術分野は、軍事技術と密接不可分に結びついている。政府は先端技術開発に協力する研究者を多額の国費を投じて囲い込み、官民一体で軍民両用(デュアルユース)可能な技術開発の加速化と軍産学複合体の形成を狙っているのだ。 政府が官民連携強化を打ち出した背景には、日本学術会議が戦後三回にわたり軍事研究反対の声明を出したことがある。菅前政権は、日本学術会議が提出した推薦人名簿から六名の任命を拒否し排除を強行した。排除された学者らは、いずれも安保法制や改憲など、政府の戦争国家化に対し批判的な立場を表明していた。日本学術会議の予算は一〇億円に過ぎず、それすらも菅政権によって削減された。政府は軍事と直結する最先端技術の開発に研究者を総動員するために、「兵糧攻め」によって、日本学術会議に「軍事研究反対」の立場の取り下げによる屈服=「御用機関化」を引き出そうとしているのだ。 第四に特許の非公開制度についてだ。開発、発明された技術を「核や武器開発など国や国民の安全を脅かす恐れのある技術の流出を防ぐ」ことを名目に、防衛省担当者らの審査を経て非公開にする制度を導入するとしている。これは、先述した第三の「先端技術開発の官民協力」と一体であり、開発、発明された新技術について政府が「安全保障上の機微な発明」と認定すれば、公開の留保や外国への特許出願を禁止できるのだ。学術研究の自由が、日帝政府の判断によって阻害され、国際的な研究交流なども大きく制限されていくことになる。 以上見てきたように、経済安保法制は、経済活動や研究、開発活動に対して国家が介入し、管理と統制を強化しようとするものである。特に半導体、量子、AIなどの先端技術分野は、軍事技術開発と一体であり、米中がこの覇権をめぐり激しく争闘する中心的領域だ。経済安保法制は、日帝支配階級の国家戦略のもとに経済活動や研究、開発領域を従属させ、一元的に統合、管理することを目指したものとしてある。 ●2章 経済安保の本質は対中包囲網形成 「有事」対応策としての経済安全保障 「経済安全保障」という考え方が日帝政府やブルジョアジーから叫ばれ出した理由のひとつには、新型コロナウイルス感染症の世界的まん延によって資本の再生産構造が停滞したことへの危機意識がある。 一九八〇年代後半から九〇年代初頭の東欧・ソ連圏の崩壊を条件にして、ブルジョアジーは、国境を越えた資本輸出を全地球的規模で拡大、加速させた。資本の極限までの利潤追求をめざす新自由主義グローバリゼーションは、国内のアウトソーシング化による搾取・収奪強化にとどまらず、国外企業をも傘下においた「グローバル・アウトソーシング」として展開された。 強欲なブルジョアジーは、より安価な労働力を求めて世界中を駆け巡り、崩壊した旧スターリン主義国家や残存「労働者国家」をも世界経済体制に組み入れていった。この中でも「世界の工場」と形容されるほど突出して国内総生産を急速に拡大し台頭してきたのが中国だ。中国は、中国共産党スターリン主義の権威主義的統制によって「国家独占資本主義化」を急速に進め、国力を飛躍的に増大させてきた。 だが、コロナ禍は、グローバリゼーションとして進展した資本の再生産構造を突如として寸断した。コロナ感染拡大に対する規制、統制は、各国ごとの政治権力構造に規定された形で行われていった。警察や軍隊など治安機関を使った厳格な都市封鎖による強権的手法をとった国家から、経済活動の継続を最優先課題にし、ほぼ無対策だった国家まで種々様々な対応がとられた。 新自由主義グローバリゼーションは国境を越えて展開されていったが、コロナ禍によって「国境」が厳然として存在するという事実が浮き彫りとなった。突如発生した「国境封鎖」「都市封鎖」という状況の中で、世界中で様々な物資の輸出入が停滞した。日本においては、感染症対策の必需品であるマスクや医療用手袋、防護服など医療用品の多くが中国製品に依存していたため、早急に調達することができないという事態が発生した。「経済安全保障」の先導役である自民党経済安保対策本部座長の甘利明は雑誌のインタビューで、「昨年からのコロナ禍で明らかになったのは日本の脆弱性。マスクさえ中国に依存しており、当初は調達に苦労した。緊張関係がある国に特定の物品の調達を依存するのは明確なリスク」とし、さらには「経済安保は企業にとっても避けて通ることができない重大な経営課題」と語っている。 経済安保法制は、コロナ禍のような世界規模での感染症拡大や災害、戦争などによってサプライ・チェーンの寸断といった「有事」が発生した際、いかにして資本の拡大再生産構造を維持するのかという、ブルジョアジーの「有事」対応策としてある。その後のロシアのウクライナ侵略で、ブルジョアジーの「有事」対応意識はさらに加速していることは間違いない。日帝ブルジョアジーは、自らの帝国主義的権益の維持、防衛のため、日帝―岸田政権の推し進める国家戦略と一体化して、政治、軍事、経済の全面にわたる国家再編を推し進めている。その経済面を主軸にした国家的再編が、経済安全保障なのだ。 「経済安保」の根底にある米中覇権争闘戦 コロナ禍によって「グローバル・サプライチェーン」の寸断という「有事」が発生し、「日本の脆弱性」という現実に直面した日帝ブルジョアジーは、ロシアのウクライナ侵攻をも要因に「経済安全保障」を声高に叫んでいる。 「経済安全保障」とは、この二~三年の間に普及した概念だ。これまで「国家安全保障」といえば、軍事力や軍事同盟などの領域を中心に語られてきた概念であった。これに経済的要素から、「国家安全保障」を実現するという考え方が新たに加わったものが、「経済安全保障」という考え方、概念である(「エコノミック・ステイトクラフト」=ESとも呼ばれている)。 このような変化が起きた主要因には、資本主義的大国として台頭してきた中国に対する米帝の危機対応がある。二〇一八年以降、米帝―トランプ政権は、アメリカの帝国主義的覇権の維持をかけて、それまでの対中国政策を転換し、経済、技術面から対抗策を次々と打ち出したのだった。これが「米中貿易戦争」といわれるものだ。 「米中貿易戦争」は米帝が、中国からの輸入品八一八品目(三四〇億ドル相当)に対して25%の関税をかけると宣言したことから開始された。これに対し、中国もアメリカからの輸入品五四五品目(三四〇億ドル相当)に25%の報復関税を課した。その後も、両国が報復関税を追加し、最終的に米帝が中国製品に関税をかけた品目は、五七四五品目、二〇〇〇億ドルにのぼり、中国側は五二〇七品目、六二〇〇億ドルという大規模なものとなった。結局、米帝トランプ政権は中国からの輸入品目のほぼ半分に関税を追加していくことになった。 米帝の対中国「経済安全保障」 米中対立は、相互の関税引き上げ合戦にとどまらなかった。米帝は、次世代通信規格の5Gで世界の通信網を中国に握られることへの危機感から、規制措置は「本丸」の通信インフラ分野にまで波及した。米帝トランプ政権は、「中国による情報の抜き取り」を理由にして、中国・ファーウェイ社製品の排除や、知的財産権の保護、さらにはウイグル自治区問題などまで持ち出して、中国の台頭を阻止する姿勢を鮮明にしていった。 さらに米帝トランプ政権は、米国経済から中国を排除する法整備、規制を開始した。それが「国防権限法二〇一九」の中に盛り込まれた三つの法律だ。第一に、「国防権限法八八九条」では、通信機器、通信設備・通信端末、監視カメラを扱う中国五社を「取引禁止先」に指定し、この五社の製品とその関連企業の製品を使う企業が米政府と取引することを禁止したのだ。 第二に「外国投資リスク審査近代化法」によって、外国企業による対米投資審査が厳格化された。ここでは軍事施設に近い不動産の取得も審査の対象とされている。菅前政権が昨年成立させた「重要土地規制法」はこれの日本版である。 第三には、「輸出管理改革法」によって、輸出管理の対象をAIやバイオテクノロジー、ロボティクスなど一四の先端分野にまで拡大した。従来の輸出規制のように、対象を「テロ支援国家」への武器・軍事転用可能技術に限定せず、先端技術の幅広い分野の製品を対象にすることで中国への輸出を不可能にした。 その後米政権は共和党トランプから民主党バイデンに交代したが、米帝の対中国覇権争闘――中国包囲網形成――はそのまま引き継がれた。二一年六月、米帝バイデン政権は、「米技術革新・競争法」を成立させ、生産の脱中国化と同時に先端技術の開発を進めている。この法律は、巨額の補助金を投じて先端技術の開発・育成支援と、中国からの重要品目の輸入をやめ、国内生産増を意図したものだ。これもまた、日本の経済安保法制の「四つの柱」に含まれる内容であり、日帝の「経済安保法制」は米帝のそれに追随したものとしてある。 米帝発の「米中貿易戦争」は、二国間による「貿易戦争」から、米帝がウイグルや香港での「人権問題」までを持ち出したことで、「体制選択」の問題にまで発展した。米中対立は、日帝や欧州帝などの同盟国を巻き込み、世界的な保護主義の台頭と域内化を引き起こしている。このような情勢の流動化が世界貿易全体の収縮を結果した。ここに至り帝国主義が進めてきた新自由主義グローバリゼーションは限界を露呈した。さらに本年二月にはロシアのウクライナ侵攻という新たなファクターも加わり、世界は帝国主義と中国・ロシアを軸にした分断と対立の時代へと移行しつつある。 国家戦略との一体化をはかる「経済同友会提言」 昨年四月、経済同友会は、「強靭な経済安全保障の確立に向けて――地経学の時代に日本がとるべき針路とは――」(以下、「経済同友会提言」)を公表した。この「経済同友会提言」は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)は二〇一〇年代後半に始まっていた世界の変化、すなわち、デジタル経済の加速、地政学的不況期への転換を浮き彫りにして、その変化を加速させ、不可逆的なものにした」との情勢認識のもと、「グローバル化と自由主義経済を謳歌する時代は終わりを迎えた。企業経営者は国家の安全保障が政治力や軍事力だけでは達成できない時代において、国家や社会に対する責任の重さを改めて認識しなければならない」として、経済安全保障の必要性を強調する内容となっている。 ここで特徴的なのは、日帝ブルジョアジーが「新自由主義グローバリゼーションは終焉した」と認識していることだ。資本輸出の拡大によって地球全体に帝国主義資本の再生産構造を拡大するだけでは、資本の利潤を拡大しつづけることができないと総括しているのだ。 そして、中国の台頭に対して次のように言及する。「グローバリゼーションの恩恵と資本主義社会からの加護を受け台頭した中国の経済成長と国際秩序への挑戦、米国による対抗が激化する中で、戦略的自立を目指す欧州(EU)が加わった三極間のパワーゲームの構図が鮮明となっている」と、中国の台頭への危機意識をむき出しにしている。 さらには、「特に、米国が一九三〇年代からの対中国関与政策の誤りを認識し、民主主義体制と異なる統治体制や価値観の存在を前提とする姿勢に転換したことは、防衛力に加え、経済力や先端技術が武器化する現代において、経済活動に安全保障の観点を強く介在させることとなった。この広義の安全保障概念である経済安全保障は、企業経営者にとって日を追うごとに身近なものになりつつある」として、経済安全保障が、米帝による対中国包囲網形成―覇権争闘の一環として明確に位置づけられていると語っている。一八年の米帝トランプによる「米中貿易戦争」の発動という情勢の流動化の中で、日帝ブルジョアジーが自らの資本主義的利害貫徹のために、とるべき立場としての「経済安保」強化を強調しているのだ。 日本の「経済安全保障」の経緯 米帝の経済安保政策に追随、呼応する形で、日帝政府もまた組織整備と法整備を次々に推し進めてきた。一九年六月には、経済産業省内に「経済安全保障室」を設置した。経産省は、昨年六月四日の産業構造審議会において、政策の新機軸として経済安保の必要性を強調した。「半導体がデジタル社会を支える重要基盤かつ安全保障に直結する戦略技術であり『死活的に重要』である」として、半導体を国家事業にする必要性を訴えた。 二〇年四月には「経済安保の司令塔」として国家安全保障局(NSS)に経済班が発足した。そして二一年一〇月に成立した岸田政権は「経済安全保障担当大臣」を新設し、経済安保法制を強行制定した。 公安調査庁は、「産業スパイ対策の情報収集・分析が急務である」として、二一年二月に長官・次長直轄のプロジェクトチームを発足させた。 これら「経済安全保障」に基づく組織再編は、日帝の「インド太平洋戦略」を名目とした中国の軍事的封じ込めと一体のものだ。米帝は、中国の政治、軍事、経済の全面にわたる「封じ込め戦略」の一環として、日帝を対中国戦略の先兵として最大限に利用している。日帝はこれに追随して、国内再編を急速に強行しようとしている。 ●3章 日米帝の中国封じ込めと対決し国際主義で闘おう 経済安保が日本にもたらす影響 米帝による経済安保をもってする中国排除戦略は日本にどのような影響をもたらすのか。 二〇年八月、クラック米国務次官は、NTT、KDDI、ソフトバンクなど六社をテレビ会議で呼び出し、次世代通信規格の5Gネットワークから、中国の通信機器メーカー五社を排除することを要求した。併せてクラックは、この六社に対し、日本政府に中国五社の製品を使わないという声明を出すように説得せよとまで要求している。 昨年六月にバイデン政権はサプライ・チェーン見直しに関する報告書を公表した。そこでは、脱中国のために、国内生産だけでなく特に半導体分野において日本、韓国との協力体制を強化することが明記されている。 これらは、米国内での韓国サムスン電子新工場建設の表明や、菅・バイデン首脳会談(二一年四月)で半導体を含む製品供給網強化の合意と、それに基づいた台湾半導体メーカーTSMCの熊本工場新設(日本が四〇〇〇億円援助)いう形ですでに具体化されている。 その後、日帝―岸田政権は、経済安保法制定を強行し、米帝の中国排除政策に追従する姿勢を鮮明にした。日帝ブルジョアジーもまた「経済同友会提言」に明らかなように、これと同一歩調を取ることを表面的には宣言している。 だが、日帝の対中国政策は、実態としては米帝への追従と経済的実利の間で「板挟み状態」になっており、経済安全保障法制も、今後の成り行きによって法施行の目的を失う事態に陥る可能性もありうる。なぜなら、日帝資本にとってこれまで中国、米帝はともに重要な貿易相手国であり、たとえ米帝の要求であったとしても、中国との経済関係を簡単に断ち切ることはできないからだ。中国に生産拠点を置く日本企業は非常に多くあり、これを短期間で代替ができる状況にはないのだ。 日帝ブルジョアジーは、生産や輸出の軸足を長年にわたり中国に置いてきた。現在でも最大の輸出先は中国だ(図表1)。主に機械類が大きな比重を持ち、輸出総額の四分の一を占めている。また、日本の機軸産業の一つである自動車産業にとっても中国は重要な市場だ。日産自動車は世界全体での販売台数の三割を中国が占めている。その他にも電子部品など数多くの業種で中国市場は欧米以上に重要な市場となっている。さらに、中国企業と新製品・新技術の共同開発をする企業も数多く存在する。日本経済全体が中国との共存で成り立っている現状があり、経済安保法制によって強制的に規制すれば、日本企業が壊滅的打撃を受けることは必至だ。 この点については、日帝ブルジョアジーも警戒感を表明している。経団連・日本商工会議所・関西経済連合会は「経済安全保障推進法案の早期成立を求める共同声明」を発表した(三月一四日)。その中で、次のように主張している。「各分野の基本指針や政省令に委ねられている制度の具体化にあたっては、事業に過度の負担が生じることのないように、対象をできる限り絞り込むべきである。とりわけ、基幹インフラの安全性・信頼性の確保の対象となる事業者や設備の指定にあたっては、中小企業への負担や影響に特段の配慮が求められる」と政府に注文をつけたのだ。 「米中貿易戦争」の実態 中国製品を排除し米国製品に代替をはかるとする米帝国内はどうか。二〇年の米国と中国との間の貿易総額は五五九二億ドルであり、前年比で三億ドル増加している。一方、日本と米国との貿易総額は一八三三億ドルであり、前年比では三五〇億ドル減少している。コロナ禍によって日米間の取引が大きく後退した中にあっても、実は米中間の貿易は増加しているのだ。すでに米中の貿易総額は日米間の三倍以上に達している。中国包囲網形成――中国製品排除に同盟諸国を巻き込みながら、実態として米中貿易は拡大しているのだ(図表2)。 新自由主義グローバリゼーションの中で形成された世界的な生産体系―再生産構造には、長年の相互依存関係があり、簡単に別の体系へと移行するなど不可能なのだ。世界は帝国主義諸国と中国・ロシアを軸とした「デカップリング(分断)」の時代へと移行しつつあるが、当面は新自由主義グローバリゼーションと、保護主義化や同盟域内化とが併存する状況となり、この矛盾は今後も拡大していくだろう。 戦争攻撃、排外主義激化と対決して闘おう 米中の覇権争闘は「貿易戦争」から、次世代通信5Gをはじめとする先端科学領域にまで拡大している。米帝は「インド太平洋戦略」のもと、軍事同盟強化に突き進んでいる。ウイグルや香港、チベットなどでの中国による人権抑圧をも利用しつつ、中国敵視政策を強行している。日帝もまた「台湾有事」の煽動や、ロシアのウクライナ侵攻をも利用し、辺野古新基地建設強行をはじめ琉球弧の軍事要塞化などの戦争国家化を強行している。 経済安全保障を主張する現代資本主義が進む先にあるものは、分断と対立の激化だ。日帝支配階級は、この間中国、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国への排外主義を強めて国内を統合しようとしている。戦争準備が国家の利害だという主張を突出させ、敵基地攻撃能力保持、核共有、防衛費倍増が日本会議国会議連の極右政治家連中から公然と叫ばれている。 このような情勢の流動化の中で、われわれは今こそ「労働者階級の国境を越えた連帯」を対置するプロレタリア国際主義をかかげて日帝―岸田政権打倒を闘っていかなければならない。全世界の労働者人民と連帯し、プロレタリア世界革命の勝利に向けて闘おう。 |
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